ウィンクルボス・キャピタル・ファンドの出資と業績改善が重なり、市場の視線が暗号資産取引所ジェミナイに注がれている。同社は2025年第1四半期に発表した決算で、事前のアナリスト予測を上回る売上高を記録し、赤字幅も予想より小さく抑えた。FactSetが集計したコンセンサス予想によると、純損失は1株当たり0.19ドルと見込まれていたが、実際には0.14ドルにとどまっている。
なぜウィンクルボス・キャピタルは1億ドルを投じたのか
ジェミナイにとって、この1億ドルの戦略的投資は単なる資本注入を超えた意味を持つ。親会社にあたるウィンクルボス・キャピタルから資金を受け入れることで、株式の希薄化を招く外部調達と異なり、経営権を保ったまま運転資金と技術開発予算を確保できる構造だ。実際、同四半期の売上高は3億4200万ドルに達し、アナリスト予想中央値の3億1400万ドルを約9%上回った。取引手数料収入が前四半期比で16%伸びたことに加え、ステーキングサービスの利用者が急拡大した点が、収益構造の変化を物語る。
経営陣が決算説明会で明かしたところでは、大口機関投資家向けのカストディ手数料収入が前年同期比で約40%上昇した。暗号資産全体のスポット取引高が市場全体で落ち込むなか、ジェミナイは決済・保管といった手数料ビジネスへの軸足移行を加速させている。ウィンクルボス・キャピタルのタイラー・ウィンクルボスCEOは声明で「金融インフラとしての信頼性こそが差別化要因だ」と述べ、出資の論拠を説明した。
## 複合収益モデルが示す収益構造の転換
同社のビジネスモデルは、単一の取引所収入から多層的な金融サービスへと変貌しつつある。最大の鍵となるのは、機関投資家向けのプライムブローカー業務と利回り商品だ。具体的には、顧客が預けた暗号資産をDeFiプロトコルやステーキングに活用し、その運用益の一部を手数料として取り込む仕組みが拡大した。FactSetのデータを基に試算すると、非取引収入の総収入に占める割合は23%から29%へ上昇している。
もう一つの構造的要因は、ライセンス戦略の積み上げである。ジェミナイは米国でニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)が発行するビットライセンスやTrust Charterを保持し、シンガポールとアイルランドでも事業認可を得ている。複数地域での規制準拠が、コンプライアンス・コストを押し上げる一方で、年金基金や大学基金などリスク許容度の低い大口資金の流入を促した。アナリスト予測では、この規制対応能力が中期的な顧客獲得コストの低減につながり、2026年度には通期での黒字転換が可能になるとの見方もある。
## AI業界と暗号資産の交点に生じる波紋
このニュースがAI業界関係者の目を引くのには理由がある。ジェミナイが3月に発表したクラウド事業「Gemini Compute」の試験提供が、早くも第1四半期の非取引収入の一部に貢献し始めたからだ。同サービスは遊休GPUリソースを暗号資産で決済できる分散型コンピューティング基盤であり、AI開発企業が計算資源を調達する際の新たな選択肢として注目されている。
大規模言語モデルの学習には数千基単位のGPUが必要とされるが、半導体不足が続くなかでベンチャー企業を中心に調達難が深刻化している。Gemini Computeは、暗号資産マイナーやデータセンターが保有する余剰演算能力をトークン化し、使用量に応じて支払う仕組みを取る。GAFAに依存しない分散インフラとして機能すれば、AI業界の計算資源調達に構造変化をもたらす可能性がある。
日本市場への間接的な影響も見逃せない。楽天ウォレットやビットフライヤーなど国内取引所がステーキングサービスを強化するなか、ジェミナイの収益多角化モデルは規制対応の先行事例として参照されるだろう。特に金融庁が暗号資産の取引所規制と利回り商品の整理を進める局面であり、日本企業の事業戦略にも波及しそうだ。
## 次なる焦点は分散型インフラの商用化速度
市場関係者が次に注目するのは、Gemini Computeが本格商用化されるタイミングとその収益インパクトである。現在は試験提供にとどまっており、第1四半期の売上貢献は推定で数百万ドル規模に過ぎない。しかし、同社が4月に提出した投資家向け資料には、2026年末までにコンピューティング事業で売上高1億ドルを目指す目標が明記された。
規制面のリスクも論点として浮上する。米証券取引委員会(SEC)はステーキング報酬の一部を有価証券とみなす立場を崩しておらず、欧州連合(EU)の包括的規制であるMiCAルールとの整合性も不透明だ。加えて、分散型コンピューティング市場にはレンダー・ネットワークやアカシ・ネットワークといった既存プロジェクトがひしめいており、差別化は容易ではない。ウィンクルボス兄弟が掲げる「信頼のインフラ」という看板を、技術力と規制対応の両面で具現化できるかどうかが、次の評価軸になる。