Figure AIは2025年9月16日、シリーズCラウンドで10億ドルを超える資金を調達し、ポストマネー評価額が390億ドルに達したと発表した。この調達規模は、人型ロボット分野における単一ラウンドとして過去最大級であり、フィジカルAIの産業化が資本市場で本格的に評価され始めた転換点を示す。

背景

人型汎用ロボットの商用化は、2024年以降に生成AIのマルチモーダル化と重なり、技術的実現性への確信が投資家側に広がっていた。直近ではNVIDIAのGTC 2025で発表された物理世界向け基盤モデルや、TeslaのOptimus計画が同領域への資本流入を加速させている。Figureの調達発表は、そうした外部環境の変化を追認するものだ。特筆すべきは調達額そのものより、評価額390億ドルという水準が、ハードウェア製造とAIソフトウェアの両方を持つ企業に対して形成された点である。この評価はAIモデル単体の企業でも、ロボット製造単体の企業でもなく、両者を垂直統合するプレイヤーへの市場期待を反映している。

構造

Figureは自社開発のヒューマノイドロボット「Figure 02」を中核に、AIモデルからハードウェア設計、製造プロセスまでを内製する垂直統合モデルを採用する。これはTeslaの人型ロボット戦略と構造的に近いが、Figureは物流・軽作業に特化した実証実験で先行している点が異なる。同社の最大の戦略的資産は、OpenAIとの提携による視覚言語行動モデルの共同開発であり、GPT系の推論能力をロボットの行動計画に直結させるパイプラインを持つ。調達した資金は、テキサス州の新製造拠点拡張、データ収集用ロボット台数の増強、および実運用データを学習ループに戻すMLOps基盤の構築に充てられる見込みだ。このMLOpsの高度化は、NVIDIAのIsaac SimやOmniverseが提供するシミュレーション環境との統合を前提としており、Figureの競争力は物理的製造能力とシミュレーション基盤の両方に依存している。

影響

今回の調達は、人型ロボット産業の競争軸が「動くプロトタイプ」から「現場で稼働し学習し続けるフリート」へ移行したことを示す。物流・倉庫業界ではAmazonの自社ロボット部隊とFigureのような外部ベンダーの間で採用競争が激化し、AIモデルの性能差が直接的に契約獲得に影響する段階に入る。同時にGPUクラスタへの依存構造も顕在化する。Figureの学習パイプラインはOpenAI経由でMicrosoft AzureのGPU基盤を利用していると推定され、ロボット企業のスケーラビリティがクラウド供給能力に制約される関係が鮮明になる。日本市場においては、製造業の人手不足を背景に、トヨタやデンソーが内製または協業で進める産業用ロボットの知能化計画に影響を与える可能性がある。Figureの垂直統合型アプローチの成否は、日本の大手製造業がロボットAIの内製と外部調達のバランスを再考する材料となる。

今後の論点

焦点となるのは、Figureが想定する顧客の現場で稼働するロボット台数をいつまでに数千台規模へ拡大できるかだ。実運用データの蓄積量がモデル性能を決定する構造のため、先行してフリート規模を確保した企業が学習速度で優位に立つ。またOpenAIとの提携関係の継続性も変数となる。OpenAIが自社ロボット部門を拡充する場合、モデル供給の優先順位に変化が生じる可能性がある。さらに中国のUnitreeやXiaomiが低価格のヒューマノイドを展開し始めており、Figureが高コストの内製モデルで価格競争力を維持できるかも、390億ドルという評価額の妥当性を左右する要素だ。ロボット向けAIの安全性基準や労働法制の整備が、商用展開の速度に与える影響についても継続的な観察が必要となる。