市場関係者の間で、トランプ米大統領と習近平・中国国家主席による首脳会談が貿易休戦期間の延長につながり、低迷する中国ハイテク株を押し上げるとの観測が急速に広がっている。焦点は半導体規制の緩和だ。複数の関係筋が明らかにしたところによると、米政府がエヌビディアの次世代AI半導体「H200」の中国向け販売を事実上容認する方針を固めたことが、投資家心理を一変させている。

貿易休戦が生む半導体規制の転換点

米中両国がハイテク覇権を争う構図に変化の兆しが表れている。米商務省はこれまで、エヌビディアのA100やH100といった高性能GPUの中国輸出を国家安全保障上の脅威と位置づけ、断固とした規制を敷いてきた。しかし事情に詳しいアナリスト3名の証言によると、トランプ政権は中国との包括的な通商交渉を優先するため、性能面でH100を上回りつつ規制対象外の設計とされるH200について「輸出許可の発給手続きを実質的に簡素化する方向で調整している」という。この動きが事実であれば、中国のAI開発企業にとっては2022年10月の規制強化以降で最大の追い風となる。

エヌビディアの戦略的ジレンマとH200の位置づけ

エヌビディアは米政府の規制に抵触しないよう、中国市場専用のダウングレード版GPU「A800」「H800」を投入してきた。H200はそれらとは異なるカテゴリーに属する。メモリ帯域幅と推論処理能力を大幅に強化したこの新型チップは、生成AIの学習よりも「推論」用途で圧倒的な優位性を発揮する。エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは先の決算説明会で「規制当局と緊密に連携している」と述べるにとどめ、中国向け出荷の具体的な見通しは明らかにしなかった。だが業界筋によると、H200の対中輸出が認められれば、同社のデータセンター向け売上高は年間で少なくとも120億ドルの上乗せが見込まれると試算されている。

中国AI企業が直面する需要と供給の崖

規制の影響で、百度(バイドゥ)、アリババ・クラウド、バイトダンスなどの中国AI大手は大規模言語モデルの訓練用GPU調達に深刻な支障をきたしてきた。特にアリババは直近の四半期報告で、クラウド事業の成長鈍化要因として「先端チップの調達難」を挙げている。H200の本格的な流入が始まれば、こうした企業群は推論処理のコストを最大40%削減できる可能性がある。BAT各社に部品を供給する日本の電子部品メーカーや製造装置メーカーにとっても、中国AI投資の再活性化は受注回復の好機となる。東京エレクトロンなど半導体製造装置の主要サプライヤーは、中国向け売上比率が3割を超えており、規制緩和が業績の上振れ要因になるとの見方がアナリストの間で広がりつつある。

地政学リスクが織り込むAI市場の新たな振幅

今後の最大の論点は、米議会の対中強硬派が今回の輸出許可簡素化にどのように反応するかである。下院中国特別委員会のマイク・ギャラガー委員長はこれまで「先端AI技術の対中流出は安全保障上の自殺行為だ」と繰り返し警告してきた。仮にH200の輸出が政治問題化すれば、11月の大統領選をにらんだバイデン政権の対中政策にも波及し、せっかくの規制緩和が短命に終わるリスクをはらむ。またエヌビディアの競合であるAMDやインテルも中国向けAIチップの認可申請を準備しているとされる。市場では「H200の扱いが今後数カ月の半導体規制全体を占う試金石になる」との声が支配的だ。米中首脳会談が単なるジェスチャーに終わるのか、それとも世界のAIサプライチェーンを再構築する起点となるのか。投資家の視線はシリコンバレーとワシントンの狭間で激しく揺れ動いている。